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概要

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稲の葉の向こうにいなごがいます。茎にかじりついています。二匹います。『おんぶいなご』です。一匹より動きがのろいに決まっています。いなごの背中の方からそっと手が見えてきました。光君の手です。まだ小っちゃい手です。きのうの夜のことです。光君は畳の上に腹ばいになり、ほお杖をついています。「あした、いやだなあ」光君はつぶやいてみました。口がとんがっています。すぐそばで、おかあさんが縫い物をしています。手拭いを二つ折りにして袋を縫っているのです。おかあさんはにこにこしながら聞きました。「どうして?」光君はいなごとりが好きではなかったのです。いなごをつかまえるのが苦手だったからです。まだ学校にあがったばかりで、運動神経が指のすみずみまで行き届いてはいなかったみたいです。だから、いなごを見つけて手を伸ばしても、そこにはもういなごは居ません。でも、おかあさんに、いなごとりが苦手だなんて泣き言は言えません。「わかった。あした、いなごとりで学校の勉強がないからなんでしょう。光は勉強がすきだからねえ」おかあさんは、一層にこにこしながら言いました。光君は返事をしないことにきめました。そのかわり、ほっぺたをふくらませて、ついでに腕もバンザイの形にのばして、畳の上をごろごろところがりました。「ほら、できあがり」おかあさんは両手で、縫った所をきゅっきゅっとしごきました。それから口のところの紐をひっぱって、ちゃんとつぼまるかどうか試してみました。いなごを入れる袋の完成です。「さあ、ランドセルにしまいなさい。それから、明日のおべんとうは、おにぎりでいいんでしょ」光君のほっぺたはふつうに戻りました。きっと、おにぎりが目に浮かんだのですね。ちっちゃいにぎりこぶしの中に、おんぶいなごが入っています。大きい方の後ろ足が少しはみ出て指をけとばすので、光君はいそいで袋の中に入れました。中で二匹のいなごがぴょんぴょんはねました。手の中は苦しかったのでしょうか。お昼になりました。「はい、一年一組はこっちですよ」先生の声が聞こえました。お弁当の時間です。袋には四分の一くらいしか入っていませんが、光君は、ずいぶんいなごとりが上達したみたいです。午後は、きっと二倍はとれるでしょうね。おんぶいなごばかりでなく文戸村光宏イラスト米倉万美22